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インフューズドコーヒーの問題点とは?①(Perfect Daily Grind)

こんにちは、ROUTEMAP COFFEE ROASTERSです。

コーヒー情報ウェブメディア『Perfect Daily Grind』で今年8月23日に掲載された「What’s the problem with infused coffees?/インフューズドコーヒーの問題点とは?」の記事をきっかけに、今コーヒー業界ではコーヒーの精製方法を巡る流通の透明性や倫理観について、様々な問題点が挙げられ議論されています。

従来、コーヒーは「ウォッシュトプロセス」「ナチュラルプロセス」「ハニープロセス」3つの方法で加工されてきました。


しかし近年では、コーヒー生産地周辺の気候変動や、その土地ごとの環境に応じた、従来とは異なる代替的な処理方法が登場しだしており、特に「発酵=Fermantation」を取り入れた精製方法に注目されています。

スペシャルティコーヒーを取り扱う日本のコーヒーショップでも、「Anaerobic Process=アナエロビック プロセス」や「Double Fermantation=ダブル ファーメンテーション」など、あまり目にしない珍しい精製方法の表示がされた(お値段がちょっと高めな)コーヒー豆が置かれているのをよく見かけませんでしょうか?

発酵によって生み出されるコーヒーは、今まで味わったことのない複雑な果実感…パッションフルーツ、トロピカルジュースのなどようなフレーバーを発する"高品質でユニークな味わい、風味”に仕上がります。

“Infused Coffee”とは、「発酵」がスペシャルティコーヒーのトレンドとして注目される中開発された、“精製過程の生豆をフレーバー液に漬け込み(=infusion)、生豆に直接フレーバーを染み込ませて生産されるコーヒー”のことです。

ではなぜ、今スペシャルティコーヒー業界において“Infused Coffee”が問題視されているのか。また、発酵のトレンドがコーヒー生産の軌道をどのように変えたのか、なぜ一部の農園がコーヒーに他のフレーバーを「インフュージョン」しているのか。

What’s the problem with infused coffees?」の記事の内容を日本語に翻訳し、詳細に解説しながら、僕(Keisuke)自身この「発酵」を巡る問題について、生産の現場で実際に見て感じてきた経験から、個人的に思うことを述べていきたいと思います。

1)始まり:“World Barista Championship 2015”と“コーヒーの発酵”

この記事の執筆者 Sasa Sestic氏は、2015年シアトルで開催されたワールド・バリスタ・チャンピオンシップの優勝者であり、当時の決勝の舞台で使用したコーヒー豆も、Carbonic Maceration=カーボニック・マーセレーションという精製方法によって生産されたコーヒーを用いたことが話題となりました。

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(出典:Perfect Daily Grind/What’s the problem with infused coffees?

【Carbonic Maceration/カーボニック・マセレーションとは?】
ワインの製造工程において、「二酸化炭素を注入することで、ブドウの皮を破らずに発酵させる方法」を参考にした発酵技術。
Sestic氏は、コロンビアの農家であるCamilo Merizalde氏と共同で、ワインでの使用方法を学んだ後この技術をコーヒー精製向けに改良。機密性の高いタンクにコーヒーチェリーを入れ密閉し、二酸化炭素を注入することでチェリーに圧力をかけて発酵を促進させる方法として開発しました。
この二酸化炭素により、チェリーに含まれる酵母による初期発酵ではなく、細胞内での発酵が起こり、チェリーはさまざまなレベルのペクチン(植物細胞をつなぎ合わせる、いわゆる「セメント」の働きをしている天然の多糖類)を分解します。そこから発生するフレーバーは逃げ場がなくパーチメントに吸収されるため、赤い果実の強い香りを持つ、明るくてワインのようなコーヒーが生まれます。このプロセスでは、アルコールが蓄積しないように低温で行われ、安定した品質を保つためには非常に繊細な温度管理が必要となります。(参考: https://www.mtpak.coffee/news/coffee-trends-carbonic-maceration/

世界の舞台で新しい精製技術を披露したことで、「カーボニック・マセレーション(以下CM)」の技術は瞬く間にコーヒー業界で話題となり、以降コーヒーの各競技会ではその精製方法で生産されたコーヒーを使ったバリスタが数多く入賞。

CMで生成されたコーヒーへの評価も高まり高値で取引されるようになりました。

Sestic氏は、「標高の低い農園でこのプロセスを使用し始めたらどうなるだろうか。コーヒーの価値を高めることができるのではないか」と考え、より安定した品質を生み出すための技術として、比較的安価で取引されやすい低標高のコーヒーの価値向上を目指すべく、ニカラグアの標高1,100mに位置する農園を購入し、CMの研究をその農園でこれまで6年間、350種類以上の実験を行って続けてきました。

さらにSestic氏は、ニカラグアの農場の近くに、近隣の農家にもCM加工を提供するための、大きなCMのファーメンテーションミル(コーヒーの共同精製所)を開設しました。

現在、CMプロセスはビーンズベルト全域の生産者に採用されています。

彼は、CMコーヒーの認知度をもっと高めるため、10カ国、50以上のコーヒー農園、50種類の品種を使用し、1,500以上の実験を行ってきました。

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(2015WBCの様子)


2)「シナモンゲート」とインフューズドコーヒーの登場

CMの実験では、発酵中のさまざまなステータス…タンクの温度、環境、時間、酵母やバクテリアのエステルなどをコントロールすることで、特定の微生物を狙います。

そうすることで、コーヒーのフレーバープロファイルを高め、カップスコアを上げ、味を特定の方法で変化させることができるのです。

例えば、コーヒーの質感を高め、クリーミーでバターのような口当たりを実現するためには、必要なステータスを調節し、枯草菌やバチルス・アミロリケファシエンスなどの微生物の存在を強調させる方法を見つける必要があります。これらの微生物は、最終的にアセトインという化合物を生成し、コーヒーにバターのような味わいを与える役割を果たしています。


ステータスのオプション(=調節可能な変数)は多く存在します。

それゆえに、多くの検証を実施してきた数から、発酵に着目した精製方法には限りなく可能性があり、コーヒーからは工夫次第で多様なフレーバーは生み出されるのだろう…と思いきや、Sestic氏曰く「チェリー自体の発酵が生み出すフレーバーには限界がある」とのこと。


そんな中、2018年のアムステルダムWBCでSestic氏がある競技者のコーヒーを試飲したとき。ある選手が提供したカップに違和感を感じたそうです。

“One national champion offered me an espresso; as soon as I held it, I could make out a distinctive cinnamon smell. When I tasted it, the note of cinnamon carried through to my palate. It was like I had put an entire stick of cinnamon in my mouth. ”

(日本語訳)「ある選手がエスプレッソを私に提供したのですが、持った瞬間にシナモンのような独特の香りがしました。飲んでみると、シナモンの香りが口の中に広がりました。まるで、シナモンスティックを1本丸ごと口に入れたような感覚でした。」

“I have tasted some really unique and rare coffees, but this one stood out. I asked the competitor about the process, and he told me that the cinnamon flavour was caused by a “special yeast” that reacted with the coffee to produce this particular taste.”

「私はこれまでにいくつかのユニークで珍しいコーヒーを味わってきましたが、このコーヒーは際立っていました。競技者にプロセスを尋ねたところ、シナモンの風味は“特別な酵母”がコーヒーと反応してこの特別な味を生み出していると教えてくれました。」


また、2019年のボストンでの大会では、ブリュワーズカップで使用された別の“シナモンコーヒー”を目にしたそう。Sestic氏がもう一度競技者に同じ質問をすると、「シナモンの風味は発酵時に特定の微生物を使用することで実現した」と話していたそうです。

これらの大会で競技者が使用していたコーヒーはどちらも同じ国(コスタリカ)のものでしたが、調べるとそれぞれ異なる農園、異なる品種、異なる加工が施されていました。

ですが、異なる精製方法にもかかわらず、シナモンの味は同じだったと述べています。

Sestic氏はこの異様なまでのシナモンのフレーバーを出すコーヒーについて、

「100%の確証はありませんが、現在このシナモンコーヒーをはじめとする他のコーヒーには、このシナモンの風味が人工的に注入されていると考えられます。調査した研究によると、このような強烈なシナモンの風味は、どのように加工・発酵させても、コーヒーでは自然には得られないことがわかっているそうです。」

と述べています。

それは、彼がこれまでたくさんのユニークなカップを味わってきたこと、そして「発酵」プロセスの実験を何回も行い、生産過程によるコーヒーの風味の影響について精通し、各農園の生産レベルの向上に貢献してきている実績から、根拠としてはかなり十分なものであると言えます。

3)シナモンコーヒーの作り方

シナモンフレーバーを人工的に注入するとはどのような様子なのでしょうか。

Sestic氏は自宅でも簡単にできる「シナモンフレーバーのコーヒー」の作り方を以下のように説明してくれています。

…必要なものは、「プラスチックの桶」、「水」、「コーヒー生豆」、そして「シナモンスティック」です。まず生豆を水に沈めて、シナモンスティックを入れます。蓋を閉めて密閉し、3〜5日放置します。
この間に豆がシナモン入りの水を吸収して、その風味を含ませていきます。準備ができたらコーヒーを取り出し、水分が11%になるまで乾燥させます。除湿器を使ってもいいし、焙煎機(35℃に設定)を使ってもいいし、ゆっくりとコーヒーを乾燥させていきましょう。

農場では、このプロセスが少し異なるとのこと。昨年、Coffeeenet社が輸出したコロンビア産のコーヒーの中に、このシナモンのプロファイルを持つものがあり、そのロットは、酒石酸とシナモンスティックを使って、好気的な環境で乾燥発酵させたものだったそうです。

・・・

②へ続きます🍀

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