見出し画像

今コーヒー業界で問題視されているインフューズドコーヒーとは?

今スペシャルティコーヒーの世界では、infused coffeeというものが問題視されています。

infused coffeeと呼ばれているのは、コーヒーの生産段階〜生産後の生豆において、infusion = 漬け込みなどによってコーヒー以外のものからフレーバーを移して作ったコーヒーのことです。シロップやフルーツやスパイスなどが使われたりしています。

この作り方やコーヒー自体はとてもユニークで、僕自身も台湾のコーヒー農園に泊まってた時にハーブやパッションフルーツ、ぶどうジュースをコーヒーの発酵時に加える実験に立ち合ったり飲んだりしてきました。


画像1


infused coffeeがなぜ話題か

8月23日にPerfect Daily GrindというコーヒーのWEBメディアに、"What’s the problem with infused coffees?" という記事が投稿されたことがきっかけで改めて話題になりました。コーヒー好きな人はもう読んだ人も多いと思うのですが、この記事では2015年の世界バリスタチャンピオンであるSasa Sesticさんが、

・2018年のワールドバリスタチャンピオンシップでバリスタが出してくれたエスプレッソが強烈なシナモンの香りで、どういう精製で作られたのか聞いたら特定の酵母が作用しているとの答えだった。

・他のコーヒーで同じような強烈なシナモンフレーバーのコーヒーがあり、それはシナモンに漬け込んで作られたコーヒーだった

・他にも品評会で強烈なトロピカルフルーツの風味のコーヒーがあり、テストの結果漬け込まれているとの判定で失格になり、後で聞いたらパッションフルーツを漬け込んで作られていた

・そのトロピカルフルーツのフレーバーのコーヒーはイタリアのバリスタ大会(Brewer’s Cup)で使われており、バリスタもそれが漬け込まれているとは気付いていなかった。

・他にもコロンビアの品評会に出されたコーヒーで、強烈なローズウォーターと赤い果実の香りがするコーヒーがあり、実験の結果エッセンシャルオイルに浸されていたと結論づけた

といった経験や考察が語られていて、結果として本人は、強烈なシナモンやトロピカルフルーツ、ローズウォーターといったフレーバーは発酵だけでは生まれない、漬け込まれて作られている可能性が高いのでは、と話していました。

彼自身世界バリスタチャンピオンに出た時も、Carbonic Maceration(カルボニックマセラシオン = 二酸化炭素浸透法)という、密閉ステンレスタンクで二酸化炭素の圧力がかかる発酵で風味豊かなコーヒーをつくって、その美味しさもあり優勝しています。コーヒーの生産過程からの風味の影響にとても詳しく、その技術を広げて様々なコーヒーのクオリティを生産レベルであげ続けている素晴らしい方なので、とても説得力や影響力がある記事でした。

infused coffeeの確かめ方やつくり方まで、とても興味深くまとめてあるので、よかったら元の記事も読んでみてください。英文ですが翻訳しながら読む価値のある文章です。


infused coffeeの何が問題か

それで、漬け込んで風味をつけたコーヒーの何が問題なのか?という話になると思うのですが、結論から言うと、情報の透明性が問題になっています。

記事にもあるように、しれっと、infused coffeeであることはわからないまま、普通にコーヒーチェリーだけからつくったコーヒーと同じように並び、伝えられてしまっているのです。


画像2


この記事を読んだ時僕は、去年2020年にタイ友人の送ってもらったコーヒーのことを思い出しました。面白いコーヒー屋ができたよーと豆を送ってくれたのですが、その中に明らかに異様な、圧倒的なライチフレーバーの豆があったんです。もうそれは、コーヒーで感じるほのかな果実感をはるかに超えた、人工的ともいえる強いフレーバーでした。

パッケージの裏には"Special Process"とだけ書かれてあって、どんな作り方のコーヒーなんだろうととても興味が湧きました。焙煎している人、生豆を仕入れている人にまでたどり着いて、ゆくゆく聞いたらライチのシロップを漬け込んで作られているコーヒーとわかりました。それならライチのシロップに漬け込んで作っているコーヒーだと書いてくれれば、もやもやせず楽しめたのになーと思いました。


画像6


このように、コーヒー以外のフレーバーを移してつくったという情報がないまま、情報が不透明なまま流通してしまっていることが起きています。この記事でも指摘されているのですが、それによって、真面目にピュアな品種や貴重な品種を過酷な環境で育てている生産者が報われなくなってしまうという問題があります。競争が不正になってしまい得るのです。

バリスタの大会やコーヒーの品評会などでは、こうしたコーヒー以外のものからフレーバーを移されて作られたコーヒーは原則禁止になっています。コーヒーの美味しさを競うのに、他のもので美味しさを添加してしまったら、バリスタの技術の戦いでは無くなってしまうからです。ただ、バリスタが持ち込んでいるコーヒー豆の生産方法の信憑性などを確かめようがない大会もあります。


画像4


情報への意識

僕はこうしたinfused coffeeと呼ばれているコーヒーがあることは、全然ありだと思っています。もちろん人によっては、好みによっては、あまり選びたくないと思う人もいるかもしれないですし、逆に興味を持って飲んでみたいという人もいると思います。

こういったコーヒーがあることや作られることが問題なのではなく、コーヒーの美味しさや価値の根幹の部分である風味の部分だからこそ、外部から添加した風味なのか、コーヒーそのものの風味なのか、という違いは分かった上で提供しないと誤解を招いてしまうということなのだと思います。

コーヒーを買う人、コーヒーを飲む人は、特に情報がない状態であれば、飲んだコーヒーの風味がコーヒー豆からくるものなんだと想像するのが自然だと思います。飲み手の期待を想像して、それに沿った情報、必要な情報をセットでコーヒーを流通していかないといけないと思います。そんな、扱う素材のことをちゃんと知った上で体験をつくらないといけないという、コーヒー屋、バリスタとしての意識を再確認させられる記事でもありました。

画像5


線引きが難しい

一方で、どこからが外部のフレーバーなのか、どこからがinfused的コーヒーなのかという線引きには難しい部分もあります。例えばコーヒーチェリーの果汁を絞って浸して作ったコーヒーはいいのか?乳酸菌発酵など別の微生物を添加して発酵をコントロールするのはどうなのか?という、何をもって素材の味とするか何をコーヒー本来の風味と定義づけるのかという線引きは、生産者が様々な新しい取り組みを持ってコーヒーの風味を個性的にして価値をあげようとしている中、より複雑になってきていると思います。また、現状生産者側にこの情報を伝えないといけないと言ったルールや義務などもありません。必要な情報を誤解がないよう買うバイヤー側が、聞き取りや視察などで集めるということが基本になっています。

こうした記事を発端として、実際に情報がまだ足りていないという部分が明るみになっていったので、今後コーヒー屋も商社も、特異な風味のコーヒー豆を仕入れる際には情報を気をつけて確認していきますし、少しずつ、生産者にとっても消費者にとってもより公正な取引になっていくと僕は信じています。


画像6


最後に

どんなコーヒーの作り方も、飲み方も自由であって欲しいと僕は思っています。コーヒーがもっと価値あるものになって、楽しい体験になって広まり、コーヒー生産がずっと続く形になって欲しいです。そのためには、なぜこの美味しさなのか、どう作っているのかという情報と信頼が必要です。

コーヒー屋の立場としては飲む人の期待を先回りして、不安や誤解がないように伝える意識が大切になってくると改めて気付かされた記事でした。最終的に選び、価値を認めるのが消費者であることに変わりはないんです。


画像7


インフューズドコーヒーについては、その流通に対して自分の信念的に合う/合わないの主観と、その情報が透明か不透明かの問題を切り離して考えるべきだと思っています。あとできる限り推察での特定農園名を出しての批判はなくしたい気持ちです。オープンにみんなが楽しめるように、どんなコーヒーへの好みや楽しみも否定されないように、どんなコーヒー生産活動もどんなコーヒーの好みも、基本的にリスペクトされるようにあってほしいです。

そして改めて、わくわくするコーヒーを作り続ける生産者、それを見つけて運んできてくれる商社、焙煎・抽出してくれるロースターやバリスタの皆さんに感謝です。


みなさん今のコーヒーの生産と流通、価値の問題についてどう思いますか?自由にコメント欄に意見をもらえたら嬉しいです!



川野優馬


この内容はYouTubeにもわかりやすく動画として載せました。詳しく知りたい方はぜひご覧になってみてください。


さいごに
SNSやってます。どなたでもお気軽にコメントやフォローお待ちしております!

Twitter: @yuma_lightup
Instagram: @yuma_lightup



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?