#104: シリアル、クルーズ船、コーヒ

#104: シリアル、クルーズ船、コーヒ

おはようございます。今週はどんな一週間でしたか?

今週は、間もなくローンチする次号の準備に追われていました。来週のニュースレターでは最新号のアナウンスができそうです。楽しみにしていてください!

さて今日は、「ダイレクトトレード」という言葉のお話。
皆さんはこの言葉にどんなイメージを持っているでしょう。コーヒーショップに行ってコーヒー豆を選ぶとき、これはインポーターから買った豆です、これは私たちがダイレクトトレードで農家から直接買った豆です、という説明を聞いてどちらを選びますか?

少し前にリリースされたポッドキャストAdventures In Coffeeの新しいエピソードで、スペシャルティコーヒー業界でこの10数年の間によく聞かれるようになった「ダイレクトトレード」という言葉について、結局どういう意味なの? マーケティング用語として乱用されてない? という問いについて考える回がありました。

フェアトレードに対してのカウンターとして2000年代の終わり頃から使われるようになったこのダイレクトトレードという言葉は、いわゆる中間業者(インポーターやエクスポーターなど)を排除して、ロースターと農家を直接繋いだ取引を指すと一般的には考えられています。この中間業者はテレビに出てくる悪役のように扱われ、彼らがマージンを抜き取っているがためにサプライチェーンの両サイドにいる農家とロースターが疲弊してしまっているという背景がある(と思われている&/or思わせて)、ダイレクトトーレドが素晴らしいものであると主張する流れができていきました。

一見素晴らしい取り組みに見えますが、ただ結局のところ、すべてを自分たちだけでやっていくのは無理があり(Intelligentsia Coffeeが究極のダイレクトトレードを目指してコーヒー輸入業を始め、その失敗についても番組内では紹介されています)、中間業者も実は少ないマージンで運営していて、彼らがいないと中小ロースターや個人のインポーターは様々な産地のコーヒー豆を自国に輸送することすらも難しいという状況があります。また、ケニアのような国では、法律の問題で、個人が直接農家にアプローチして生豆を購入することさえできないのだとか。中間業者の中には本当に悪い人もいる(安く買い叩いたり)というのも一部ありますが、彼らがいないとコーヒーのサプライチェーン全体がうまく機能せず、コーヒー取引において必要不可欠な役割を担っています。番組内での「ダイレクトトレードという言葉は、ナチュラルフードのような言葉で、悪い言葉ではないけれど、意味がない言葉だ」というChris Kornmanさんの言葉が強く印象に残っています。

とはいえ、コーヒー農家の抱える問題の根本的な解決にはなっていないもののダイレクトトレードはコーヒーに透明性をもたらすきっかけになり一部の農家にとって少なからず経済的な負担を軽減するのに役立っています。つまるところ、「'何'トレード」だろうが、農家にいくらお金が渡っていて、それがどのような変化をもたらしているのかが重要であるということになりそうです。

皆さんにとって、ダイレクトトレードはどんな意味を持つ言葉ですか? 今度コーヒー屋さんに行ったときにぜひ話題にしてみてください。

それでは今週も良い週末を。

編集長 Toshi


 

 

This Week in Coffee 
世界のコーヒーニュース

認証規格のフレキシビリティ

以前のニュースレターで、渡り鳥の生息環境を保全する「バードフレンドリー認証」について紹介しました。葉の陰や木々の高さといった明確な認証規格を設定することで、鳥たちにとって理想的な環境を確保するのが同認証の最大の特徴です。しかし先日発表された研究結果によると、認証規定に沿った環境は、生息地やエサに融通のきく、または繁殖期ではない鳥たちには有効である一方、特定の生息環境を必要とする種や繁殖期の鳥たちに対してはあまり効果がなく、農園とは別に手付かずの森林地帯が必要であることが分かったそうです。

そもそもこの研究が行われた背景には、認証基準の柔軟性の欠如があります。というのも、バードフレンドリー認証は「明確な規格」に基づくがゆえに、規格には含まれていなくとも鳥たちの生息・繁殖に大切なアクション (農地内の天然林の保護など)が評価されないという問題を抱えていたのです。この批判を受け、研究者たちは固有種が多く生息し、多様な生産環境(日なた、シェードツリー有、森林地帯など)が入り混じるコロンビア山地のコーヒー農園を訪問。現地の地形データから、鳥たちの生態系を分析した結果、手付かずの森林とシェードツリーでは、生息する鳥のグループが異なることが判明しました。さらにそのグループも、季節や時期によって変化することが明らかになったそうです。

この結果を受け、認証プログラムを運営するスミソニアン渡り鳥センターは、認証規格のアップデートに取り組んでいます。生態系の保全に限らず、ある基準やゴールが設定されると最適化のインセンティブが生まれ、本来の目的が失われてしまうということがよくあります。それを防ぐための現状把握と「変える勇気」の重要性を認識したニュースでした。

気になるニュース

▷ 現在ロシア国内では、紅茶・コーヒーの在庫不足が深刻化しています。ヨーロッパ経由の輸入ルートが閉鎖され、中国やロシア東部経由の代替ルートでは需要を満たせていないとのこと。ちなみに以前の取り上げたニュースでは、一部の商社がロシアのコーヒー企業との取引を延期・停止していると報じられていました。

▷ 株価下落に苦しむオーツミルク企業Oatlyの現状を、WSJがYouTube動画で解説これまで急成長を遂げていた同社ですが、米国工場の工期の遅れや排水問題によって他社ブランドの追随を許し、競争が激化しつつあります。打開策として今年4月に新CEOを迎え、オペレーション強化に乗り出しました。

▷ YouTubeスター、エマ・チャンバレンのコーヒーブランド「Chamberlian Coffee」が、コーヒーシリアルを発売。グルテンフリー、ビーガン仕様の同商品をミルクに入れると、シリアルからコーヒーが溶け出し、アイスカフェオレのような風味になるそう。

▷ 南アフリカ発のカフェチェーンTashasが、ロンドンに進出予定今後10年間でグローバルに50店舗以上の展開を見据えています。Sportifyで同カフェのプレイリストも公開中。

▷ 現在韓国・仁川(インチョン)国際空港では、フードデリバリーロボット「Air-dilly」が活躍中。待合所の椅子の背に貼り付けられたQRコードを読み込んで飲み物や食べ物をオーダーすると、近隣の店舗から商品を届けてくれるそうです。最大17kgまで運送可能なので、腹ぺこで椅子から動けなくなっても安心ですね。

物足りないあなたへ

全米コーヒー協会 (NCA)が、コールドブリューの消費量拡大を受けてリテールビジネス向けにーフティーガイドを公開。IWCA (International Women’s Coffee Alliance) が新たにケニア支部を設立。インテリジェンシア・コーヒーが、クルーズ船ヴァージン・ボヤージュとのパートナーシップを発表ました。

 

 

What We're Drinking
今週のコーヒー

 

POSSE COFFEE 福井地図

福井県坂井市三国町、東尋坊すぐ近くの丘の上で2013年オープン。スペシャリティコーヒーを通してお客様を少しでも笑顔にすることを企業理念としています。コーヒーで世界を大きく変えることはできないかもしれない。けれど、コーヒーで目の前の人をほんの少し笑顔にすることができる、そう私は信じ今日もコーヒーを淹れています。

 

生産者 ディエゴ・サムエル・ベルムーデス「エル・パライソ農園」

生産地域ロンビア カウカ県ピエンダモ地区(地図

品種カスティージョ

精製方法ダブル・アナエアロビック・ウォッシュド

テイスティングノート
プラム、オレンジ、プルーン、赤味噌

編集長のコメント:

少し前にもテイスティングさせてもらったディエゴさんのコーヒー。あ〜、このアナエアロビック感は!という感じで再会を喜びました。そして今回もとても面白いフレーバー体験でした。少しガスで膨らんだコーヒーバッグの封を切ると、焼きそばにかけた青のりのような香りがしてきます。自分の感覚がおかしいのかな、なんて思いながらお湯を注ぎ、出来上がったコーヒーのカッピングをスタート。精製方法から生み出される味わいから、派手なイメージのあるコーヒーでしたが、浅煎りすぎない焙煎度合いのおかげで落ち着いている印象で味が馴染んでいるような飲みやすさ。ライムのようなジューシーな酸味を感じ、続いて砂糖のような甘さ、でも黒糖のような複雑な甘みで、黒糖で作ったモヒートのグラス下に溜まった濃いめのシュガー感を彷彿とさせてくれます。(あの下に溜まったところが美味しいんです)そして、ジェリービーンズのようなファンキーなフレーバーも感じます。それでいて味わいに発酵感からくる刺々しさはなく、綺麗でクリーン。どこかクリーミーな飲み口もあります。そして青のりのようなニュアンスも。いろんなフレーバーが入ったジェリービーンズの袋を食べているような、楽しくて味蕾をくすぐられるコーヒーでした。ごちそうさまでした!


Artists in Residence
Standartを彩るアーティストたち

アーティスト: 

ベン・ワーガフト  ウェブサイト

プロフィール:

食と飲料 (特にコーヒー)を専門とするライター兼歴史学者。代表著書の一つが、培養肉についての研究をまとめた『Meat Planet: Artificial Flesh and the Future of Food』。現在は、実の母であり、Standartのコントリビューターでもある人類学者メリー・ホワイトと共に、食の歴史と人類史についての本を執筆中。

最新の掲載記事:

Standart Japan 第18号「カフェを惜しんで」

 

Inspiration
おすすめの本、映画、音楽、アート

NOT YET ALREADY

先日フラッと立ち寄ったSPBSで、ビビッときて即購入した雑誌。リノベーションを中心とした設計、施工を数多く手掛けている会社「ROOVICE(ルーヴィス)」が刊行する、空間や建築を新しい視点で考え直す一冊です。「世に様々あるついの状態や概念を常に行き来するような、二分法で割り切れない、割り切らない視点をこの本に集めた」とまえがきにあるように、「まだ」と「すでに」の間を行き来しながら、さまざまな建築 / 空間とモノ、それに携わる人々について生まれてくる問いについて考えていきます。

Standartを読んでくださっている読者の皆さんからよく、「Standartは答えが書いていない」「問いかけが多い」と言われることがあるのですが、問いをアップデートしながら考えを巡らせていく過程やその結果行き着いた先にこそ学びや気づきがあって、それが面白いと常々思っています。このNOT YET ALREADYも、問いに対して思考を巡らせたり、ある一つの解を見せてくれたりと、興味をかき立ててくれます。

そして特に気に入っているのがグラフィック。ページをめくっていく度にワクワクさせてくれて、でも奇をてらったわけでもなく、色味づかいや写真などのビジュアルとのバランスや緩急のある誌面作りからは一体感を感じてクリーンな印象を受けます。とても参考になるとともに、同じ紙媒体を作るものとして少し嫉妬のような気持ちも覚えました

まだ実は全部読み終えてないんですが、中国の建築プロジェクト「プラグイン・ハウス」(古い建物にプレファブ建築をはめ込んで建築コストを圧倒的に削減したユニークな建築)の記事では、中国の建築の現状やそれに対してのハッキング的なアプローチを知ることができたし、京都大学の学生寮「吉田寮」の話では現代的な意味合いでのシェアやコミュニティという概念を「寮」といういわば古くからあるコミュニティのあり方から改めて見つめなおすことができました。他にもサクッと読める記事からググッと前のめりに読ませてくれるものまで、いい雑誌に出会えたなぁ〜と手に取るのが楽しい雑誌。こちらのルーヴィス代表の福井信行さんの記事も面白いですよ!



Brewing with…
あの人のコーヒーレシピ 

 

高橋 珠利亜 aka ぽめちゃん 

ニュージランド留学中にエスプレッソのベーシックレッスンを受け、その時に飲んだunder/over/perfect extractionの違いと難しさに知的好奇心を刺激され、魅了される。瞬発的に自分ももっと甘くできると謎の確信を持ってしまい大学を休学、オークランド市内のカフェとコーヒースタンドでバリスタとしてのキャリアをスタート。2019年に帰国し都内でAllpress espresso、THE COFFEESHOPにて経験を積み、現在はSingle Oに勤務。10年間という期間をコーヒーキャリアのゴールとして設定し、From seed to cupの逆のFrom cup to seedをテーマにどこまで近づけるかを挑戦中。最近、Qアラビカグレーダーを取得。好きな犬種はポメラニアン。

5 questions

今気になっている問いは?

コーヒーに対してジェンダーステレオタイプになってませんか?という問いです。コーヒーを通すと言語も人種も性別も超えるそんな多様性が実感出来て好きです。バックグラウンドによって違うことは良いと思いますが、バイアスから生まれるギャップになってしまわないように懸念しています。自分の経験を通してコーヒーで生きてく人間として振り返って考えてみても、業界に根付いているジェンダーギャップに始まり、エイジズム、ルッキズム、セクシズムが蔓延っていて、正直そこで何度か挫折しそうになるのは予想外でした。現在は、ジェンダー平等と20代のバリスタ飽和状態からの脱出についてコーヒーで何か変えれないのか、どうやって個人のキャリアとしてアクションプランに落とし込むのかを考えていて頭の中のアイディアを2年以内に実現したいなと計画しています。また、1996年生まれの自分と同い年のコーヒーがなきゃ繋がらないバックグラウンドの人を集めて、人ってこんなに違くて良いんだっていうことをシェアできてそれぞれの頭の中にあるコーヒーのアイディアを実現できるようなイベントを何かしたいなってふわふわ考えています。一緒に何かやりたい1996年生まれの方やアイディアなどあれば是非DMしてください!

お気に入りの場所は?

公園のベンチどこでも。動いている世界の中で自分が自分の好きなように止まって自分の思考のカオスを楽しめるからです。日々違う公園違うベンチで本を読んで瞑想するのが日常です。

譲れないこだわりは?

一日のテーマを朝起きた時のフィーリングで決めて家を出るまでにそのテーマのコスプレの自分をつくること。物心ついた時から自分の中だけで今日はこういう自分っていうテーマが毎日あって、その感じに合う服だったり音楽だったりをセレクトして100点満点今日も自分最高にかっこいいって思って生きたいって思ってるんですよね。めちゃくちゃ中二病です。

後は夏はTシャツにデニムが欠かせません!今年の夏のコンセプトは何してるのかよく分からないけどハッピーでちょっと奇妙な人です。

今誰と一緒にコーヒーを飲みたい?

留学中にオークランド市内で通っていたコーヒースタンドのバリスタ達です。当時は、彼らとの会話や抽出してる時の表情から強いパッションを感じてどうしてそんなにコーヒーに魅せられて楽しそうなの?で頭がいっぱいでした。自分はバリスタベイビーだったので正直自分が抽出しているコーヒーがspecialty coffeeだった自覚がないくらいのレベルでした。なので彼らとフラットホワイトでも飲みながら伝えたいのが、どうしてそんなにコーヒーが楽しそうで魅力的なのかやっと今理解できるよ!って。出会ってきたバリスタ達のパッションに導かれて今の自分があるので、ありがとうとリスペクトを届けたいです。

一番聞かれたくない質問は?

将来どうするの、何するの?っていう質問です。未来を口に出した時点で叶わないパーセンテージが上がって自分のリミットを決める感じがするから嫌です。他人から見た自分と自分の中の自分を死ぬまでずっと裏切り続けたいので、声がトリガーになって物事が動く直前のチャンス手前までは他者へは出来るだけヘラヘラするようにして回避しています。

 

Fancy a refill?
編集後記 

最近は猛暑に耐えかねて、日が少し傾いた時間帯を見計らって散歩に出かけています。春から随分と高さが増した空と、そのスペースいっぱいに広がろうとする夏雲を見るだけで、家に引きこもっていただけの一日が、大切な夏の思い出となった気分です。

先日観たノルウェー発の映画「わたしは最悪。の中で印象的だったのも、映画の舞台オスロの情景でした。夕暮れ時の透き通るような街の空や、日照時間の長い北欧の夏ならではの夜明けの明るさ。清々しいほどに強い昼間の日差しは、福祉国家としての幸福感と、”何か”を探し求めて迷走する主人公ユリヤの感情とのコントラストを表しているかのよう。監督・脚本を務めたヨアキム・トリアー氏は、「映画には”土地ならではの特別な感覚”が現れる」と述べていますが、自分が夏の空に感じたのも、それに近い感覚なのかな〜なんて思ってみたり。

Takaya

 


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今週の The Weekend Brew は Standart Japan 第20号スポンサーのFAEMA、パートナーの Victoria Arduino x トーエイ工業TYPICAProbatセラード珈琲MiiRのサポートでお届けしました。

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Standart Japan
(執筆・編集:Takaya & Atsushi)